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5話 不思議な体験

Penulis: 空蝉ゆあん
last update Terakhir Diperbarui: 2025-10-13 08:00:55

長い時間、夢の中にいたルルアは鶏《にわとり》の鳴き声に叩《たたき》き起こされた。バチッと瞼《まぶた》を見開くと、知らない天井が見える。どうしてベッドで寝ているのか、思い出そうとするが、記憶は曖昧《あいまい》だった。考えても仕方ないと感じたのか、勢いよく起き上がると、んーと背伸びをしていく。

「ふぁあ、良く寝た」

ベッドで寝る事のなかった体は、全ての疲れを吹き飛ばし、ルルアに異様《いよう》な力を与えていく。睡眠がいいとここまで体調的にも精神的にもいいのかと実感する事が出来る。周囲の様子を考えずに、勢い良く起きてしまった。ふと横から寝息が耳を掠める。引き寄せられるように視線を落とすと、横で気持ちよさそうに眠っているロザンがいる。

起こしてしまったかもしれないとアタフタしていたが、小さく声を零すと、再び熟睡《じゅくすい》モードに入った。内心ホッとしたルルアは、起こさないようにベッドから這い出ていく。

ここは何処《どこ》だろう。見た感じ宿屋《やどや》と言うよりも、誰かの家のように見える。部屋の隅《すみ》に置かれた生活感、溢《あふ》れる作業着が目に入る。ここは鍛冶屋《かじや》の村と言われている。引っ掛《か》けられている作業着も鍛冶屋関連のものなのだろう。少し鉄の匂いがしている気がする。

自分の状況を把握《はあく》するように、周囲を観察する。ベッドが置かれている位置の裏手《うらて》にドアが隠れていた。最初裏戸だと思ったが、装飾《そうしょく》を見ると、どちらかと言うと部屋に続くものに思えて仕方ない。

軽くコンコンとドアを叩いてみる。中に人がいるかの反応を待っていた。数分、猶予《ゆうよ》を与えてみるが、何の反応もない。自分の考えが外れているのだろうか、と不思議そうに見つめた。疑問を解消《かいしょう》する為に、行動に起こそうとするルルアがいる。

「誰もいない……気になるわ、この先」

冒険心を止める事が出来ないルルアは、覚悟を決めるとドアノブに手を掛け、開いていったーー

「……は?」

眼の前に広がっている光景は衝撃的なものだった。大きな蛇《へび》がとぐろを巻いている。蛇は一つの剣を守るように巻き付いていた。何故、こんな所に蛇がいるのか、寝ぼけているのかと目を擦《こす》って、もう一度見てみるが、同じ光景が存在しているだけ。

「この蛇ってモンスターの部類《ぶるい》なの? それともただの害虫《がいちゅう》?」

疑問はそれだけじゃない。蛇がいるこの部屋には窓も外に繋がるドアもない。あるのは二人が寝ていた部屋と繋《つな》がる、この扉だけ。外に繋がる道があるのなら、入り込んだと決めつける事も出来るが、今回はそうじゃない。

鍛冶屋の村ルンガで出会った正体不明の蛇は一体何なのか。答えを知りたいルルアは見てしまった事実を公表し、話を聞き出す選択をする。

「って……あの剣、ミツルギだよね」

自分の剣なのに、今更気づく事になるなんて……何処かで見た事があると感じた感覚は間違いじゃなかった。ルルアは自分の相棒《あいぼう》を取り戻すべく、そろりそろりと蛇へ近づいていく。昔本で読んだ内容を思い出したルルアは、蛇の大きさにも疑問を持つ。普通サイズの蛇は小さいが、目の前に居る蛇は巨大なのだ。

部屋の中でとぐろを巻かないと入れないサイズ。どうやってこの体制《たいせい》にしたのかさえ、分からない。

一歩ずつ近づくルルアの気配《けはい》を感じているのか、うにょうにょと体が動き出した。急な事でビクリと全身を震《ふる》わせてしまったが、立ち止まると止んでいく。時間をかければどうにかなると簡単に考えていたが、これじゃあ、きりが無い。

ルルアが動くと連動するように蛇もガラガラと音を無らしながら、震える。勇気を振り絞って相棒を取り戻す為に救出作戦を発動《はつどう》した。例え気づかれて、攻撃されたとしてもミツルギさえあればどうにかなる、そう考えるとバッと飛び込んでいった。

「あたしのミツルギを返しなさい、害虫」

飛び込むと思った以上にミツルギに近づく事が出来た。右手を思い切り伸ばすとやっとの思いで鞘《さや》を掴む事に成功する。ギュインと自分の胸に引き寄せると、どうにかミツルギを手に戻す事が出来た。その瞬間、眼の前にいたはずの蛇が姿を消し、何もなかったように静かな空間に戻って行った。

何が起きているのか理解しようとするが、出来ない。ルルアは魂が抜けたように放心状態になると、ペタリと地べたに座り込んでしまう。

「ルルア?」

思いの外《ほか》声が出ていたようで、目を覚ましたロザンが様子を見ている。いつもと様子の違うルルアの背中を心配する眼差《まなざ》しで眺《なが》めていた。

名前を呼んでも反応がない。彼女に近づこうと部屋に足を踏み入れた瞬間、見た事のない魔法陣が展開《てんかい》され、ルルアと秘剣ミツルギを中心に光が時間差で広がっていく。目が冷めてから時間が経過《けいか》していない事もあり、頭が追いつかないロザンは、少しタイミングを遅らせてしまった。

「ルルア!」

大きな声で彼女の名前を呼ぶ。側にいたはずの彼女は強制的《きょうせいてき》に部屋の中心に転移《てんい》されたようだった。何の変哲《へんてつ》もない物置なのに、こんなあり得ない自体を引き起こしている事実は現実離れている。

ロザンの声はルルアに届かずに、宙の中に垂れ下がっていく。

□□

今日は不思議な事ばかり起こる日だ。魔法陣で埋め尽くされた部屋の中で漂《ただよ》うルルアはぼんやりとしながらそう思った。自分はここにいるはずなのに、どうしてだか意識がはっきりしない。気だるいとも違う、この違和感《いわかん》はなんなのだろう。

「よく来られたな、客人よ」

視界《しかい》は見た事もない記憶を見せながら、自分に向けられている誰かの言葉に意識を引き寄せられた。全てがグラグラしていたはずなのに、その声が聞こえる方向に向くと、体調が悪かったのが嘘のように、自由になっていく。

「本当はあのままお主と話してもよかったのだが、思わぬ来客が来たので転移させた。慣れるまで大変だろうが、すまない」

視界がはっきりしてきたルルアの前に白髪《はくはつ》の女性が立っている。見た感じ、何処かの貴族のように見えた。こんな綺麗な人を見た事がないルルアはパニックになりながら、ぐりんぐりんと尻尾を回している。

「私は月夜《つきよ》。お主の無くしたものを返す為に、ここに来た」

「無くしたもの?」

「そう。ルルアにとって何よりの宝だ。これを受け入れるかはお主次第だが……私は大丈夫だと信じている」

月夜は何の事を言っているのだろうか。ルルアの記憶の中にはそんなものは存在しない。思い当たる節《ふし》が全く無い事から、人違いをしているのではと思う事にした。

「ふふふ。人違いではないぞ。お主が忘れているだけだ」

「どういう意味?」

「言葉で説明するより、見せた方が早いな」

月夜はそう言いながら右手を高らかに上げる。彼女の指先を目指して小さな光の集合体が丸く形を繕《まと》っていく。その姿はまるで女神のようで、ほうと目を奪《うば》われてしまう。

「汝のまほろをここに示せーー蛇神《じゃしん》よ」

蛇神ーーそのワードに引っかかりを覚えたルルア。これは現実ではない、きっと夢の続きを見ているだけなのだろう。そう言い聞かせる事で、全ての異質《いしつ》さを取り囲んでいく。そうすると不安な気持ちから解放《かいほう》される気がした。

どうしてだろうか。今までこれほどの恐怖と不安を感じた事は一度もない。自分の知らない感情が会話が世界が、ルルアの一部となり、溶けていく。

「魂は同じ。だから馴染《なじ》むのは一瞬だっただろう」

「な……に、コレ」

ルルアにしか見えない景色はこことは全く正反対の世界だった。沢山の建物が入り組んでいて、見たことのない技術が発展している。猫耳族は勿論、他の獣人族の姿も見えない。その代わりにヒューマンで溢《あふ》れかえっていた。

「ヒューマンの世界?」

「少し、違うな。彼らの事はヒューマンとは呼ばない。この世界では「日本人」と呼ばれている。そしてルルア、お前もまたその中の一人だったのだ」

幸せだった日常がルルアの脳裏に何度も繰り返される。まるで実際に体験しているようだった。

ポロポロと一筋の光が頬《ほほ》を伝って、地面へと吸収されていく。自分が何故ルルアとして生きているのか、自分が選ばれた者だと知ったルルアは、昔のように涙を流し続けた。

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